このページの要点
- 末尾条項は、電磁的記録として作成、電子署名を付す、各自が保管、電磁的記録を原本とし印刷物は写し、の四点を一つの条に入れる。
- 「電子署名」の語は、電子署名法2条1項の二つの要件に沿って定義するか、方式を特定する。サービス名は条文でなく署名欄の近くか別紙に置く。
- 書面と電子を併記する型は、どちらで結んだかが後から分かるようにし、一方が紙・他方が電子の混在を認めるかを決める。
- 個別契約・変更をメールやチャットで行う条項は、使える手段、成立の時点(民法97条の到達)、保存する側と期間を定める。通知条項は方式・到達・アドレス変更の三つを入れる。
結論:電子締結の条項は「作り方・署名・保管・原本」を一続きで書き、通知と個別契約の成立は別の条で定める
電子で契約を結ぶときに、契約書の本文の書き方が変わる場所は多くありません。契約書の中身である権利義務の条項は、紙でも電子でも同じです。変わるのは、契約書の最後に置く「この契約をどうやって結んだのか」を述べる条項と、契約の途中で出てくる「通知」「変更」「個別契約の成立」といった、やり取りの方法を決める条項です。この二か所を整えておくと、署名の後に「どれが正本なのか」「このメールで契約は成立したのか」と争いになる余地が小さくなります。
契約書の書き方に法律上の決まった型はありません。契約は、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を備えなくても成立します(民法522条2項)。つまり、末尾の条項は「電子で結んだことを有効にするための呪文」ではなく、後から事実を説明するための記録です。何を電磁的記録として作ったのか、誰がどの方法で署名したのか、誰がどこに保管するのか、どれを原本として扱うのか。この四点が条項から読み取れれば、役割は果たしています。
このページは、契約書の条項そのものの書き方に絞っています。電子署名の法的な位置づけは電子署名法3条と民事訴訟法228条4項のページで、署名の順序や日付の決め方は署名の順序・締結日・成立時期のページで扱います。メールやチャットでの合意が契約として成り立つかどうかの法的な整理はメール・チャット・ウェブ画面の同意のページに譲り、ここでは「そう定めるなら、どう書くか」を扱います。
先に結論を並べます。
- 末尾条項は四点セット。電磁的記録として作成すること、電子署名を付すこと、各自が保管すること、電磁的記録を原本とし印刷物は写しとすること。
- 「電子署名」の語は、定義するか、方式を特定する。何を指すのかが曖昧なまま使うと、署名の方式が違ったときに条項と実態がずれる。
- 書面と電子を併記するなら、どちらで結んだのかが後から分かる書き方にする。一方が紙、他方が電子という混在を許すかどうかも決める。
- 個別の注文や変更をメール・チャットで成立させるなら、成立の時点・範囲・記録の残し方を条項に書く。「通常到達すべき状態に置かれた時点」のような言葉は、民法97条の到達との関係を読み合わせる。
- 通知条項には、方式・到達の時点・アドレス変更の三つを入れる。
- サービス名は、条文の中ではなく署名欄や付属の書類に置く。サービスが変わっても条文を直さずに済む。
末尾条項の基本の型:作成・署名・保管・原本と写し
電子で締結する契約書の末尾には、実務でよく見られる例として、次のような型の条項が置かれます。紙の契約書の「本契約の成立を証するため、本書2通を作成し、各自記名押印のうえ1通を保管する」という条項を、電子の言葉に置き換えたものです。
条文例電子締結の末尾条項(一般的な型)
- 本契約の成立を証するため、本契約書を電磁的記録として作成し、甲および乙は、これに電子署名を付す。
- 前項の電磁的記録は、甲および乙がそれぞれ保管する。
- 第1項の電磁的記録を原本とし、これを印刷した書面は写しとする。
番号は条の中の項です。署名欄、日付欄は契約書の末尾に別に置きます。
四つの要素を一つずつ見ていきます。
電磁的記録として作成する。電磁的記録とは、電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録で、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいいます(電子署名法2条1項の括弧書き)。民法446条3項が、保証契約について「その内容を記録した電磁的記録によってされたとき」と書いているのも、同じ種類の言葉です。契約書のファイルが、これに当たります。「PDFファイルとして作成し」のようにファイル形式まで書くことは必須ではありませんが、署名の対象になるファイルが一つに定まるように、署名を付す前のファイルがどれなのかは運用で決めておきます。
電子署名を付す。署名を付す主体は「甲および乙」です。当事者が法人のときは、署名するのは法人を代表する者か、権限を与えられた者です。誰が署名したことになるのかは条項では分からないため、署名欄に法人名と肩書を書く、署名者の権限を表明させる、といった補いが必要になります(署名者の確認は署名者の本人確認と権限の確認のページで扱います)。
各自が保管する。紙の契約書では、2通作って1通ずつ持つことで、双方が同じ書面を持っていることを示していました。電子では、署名後のファイルは電子契約サービス上に保管されることが多く、各当事者がダウンロードして自分の環境に置くか、サービス上のアカウントから常に取り出せる状態にするかで、実態が分かれます。条項に「各自保管する」と書くなら、実際にそうできる運用になっているかを確かめます。サービスの解約や利用停止の後にデータが取り出せなくなる場面は、タイムスタンプと電子契約の保存のページで扱います。
原本と写しを区別する。電磁的記録は、複製しても内容がまったく同じものができるため、紙の「原本」と「写し」の区別が当然には成り立ちません。そこで、署名が付されたファイルを原本と定め、印刷した書面は写しにすぎないと決めておきます。この条項が効いてくるのは、印刷した書面を取引先や金融機関に提出するときと、争いになって証拠を出すときです。電磁的記録に記録された情報の内容について証拠調べを申し出るときは、その電磁的記録そのものを提出するか、提出を命じるよう申し立てることが求められます(民事訴訟法231条の2第1項)。印刷物だけでは足りない場面があることを念頭に置くと、原本の定めの意味が分かりやすくなります。
「電子署名」の語の使い方:定義を置くか、方式を特定するか
電子契約の条項で最も整えどころになるのが、「電子署名」という言葉です。電子署名法2条1項は、電子署名を、電磁的記録に記録することができる情報について行われる措置で、①その情報が措置を行った者の作成に係るものであることを示すためのものであること、②その情報について改変が行われていないかどうかを確認することができるものであること、の二つの要件のいずれにも当たるもの、と定めています。この定義は、電子契約サービスの方式を問わず、また手書きのサインを画像にしたものかどうかも問わず、機能で線を引いています。
契約書の側が「電子署名を付す」と書いたとき、その語が電子署名法2条1項の電子署名を指すのか、「電子的な方法で署名らしいものを付す」という日常の意味で使っているのかは、条項だけでは分かりません。実際のサービスでは、画面上で氏名を入力して押すだけの形式から、事業者が署名鍵で署名を付す形式、本人が電子証明書で署名する形式まで幅があります。どれを使うかで、署名を後から検証できる程度が違います(方式の違いは事業者署名型と当事者署名型の違いのページで整理しています)。条項の言葉と実際の方式がずれていると、争いになったときに「この条項でいう電子署名とは何か」という点から論争になりかねません。
整え方は三つあります。
- 機能で定義する。電子署名法2条1項の二つの要件を、契約の言葉に引き直して定義する。方式が変わっても条項が使える。
- 方式を特定する。「当事者が利用に合意した電子契約サービス上で、署名者を識別する情報が付され、署名後の改変の有無を確認できる方法」のように、運用の実態に合わせて書く。
- 語を使わずに事実を書く。「電子署名」と書かず、「甲および乙は、合意した電子契約サービスの手順に従って署名の手続を行う」と書き、手順の完了を成立の条件とする。
書き方の例(一般的な例) 「電子署名」の語の置き方
語を定義しないまま使う
理由言葉が機能で定義されるので、利用する方式が変わっても条項と実態のずれが生じにくい。電子署名法2条1項の二つの要件に沿わせている。
サービスの名前を条文に書き込む
理由サービスの名称や提供条件は変わることがある。条文に固有名を入れると、サービスの変更のたびに契約書の改定が必要になる。
空欄を残したまま署名に進む
理由空欄が残っていると、どのサービスを想定した条項かが署名後も確定しない。署名前に埋めておけば、条項と実態が一致する。
「措置」という言葉を使う条項も見られますが、これは電子署名法2条1項の文言を借りたものです。法律の文言を借りること自体は誤りではありません。ただ、契約書を読む当事者にとっては「署名を措置する」は日常語ではなく、何をすることなのかが分かりにくくなります。実務の言葉で「署名を付す」「署名の手続を行う」と書き、必要なら定義で法律の意味に結びつける、という整え方が読みやすい書き方です。
もう一つ注意したいのは、「電子署名を付した」と書いたことで、電子署名法3条の推定が当然に及ぶとは限らない点です。3条は、本人による電子署名(これを行うために必要な符号及び物件を適正に管理することにより、本人だけが行うことができることとなるものに限る)が行われているときに、真正な成立を推定します。条項に電子署名と書いてあることと、3条の要件に当たることは別の話です。推定が働くかどうかは方式と運用によって決まるため、契約書の条項では「推定される」と書くのではなく、署名の事実を記録に残す手順を整えることが現実的です。
書面と電子を併記する型:どちらで結んだのかを後から分かるようにする
同じ契約書の雛形を、紙で結ぶ相手と電子で結ぶ相手の両方に使いたいときに、よく使われるのが併記型の条項です。契約書の最後に「書面で締結する場合」と「電子で締結する場合」を並べておき、実際に採った方法に従う形です。雛形を一つで済ませられる点は便利ですが、そのまま署名に進むと、結んだ後に「どちらの方法で結んだのか」が契約書から読み取れなくなることがあります。
条文例書面と電子の併記型(一般的な型)
- 本契約は、次の各号のいずれかの方法により締結する。
- 書面により締結する場合は、本契約書を2通作成し、甲および乙が署名または記名押印のうえ、各1通を保管する。
- 電磁的記録により締結する場合は、本契約書を電磁的記録として作成し、甲および乙が電子署名を付したうえ、各自その電磁的記録を保管する。この場合、当該電磁的記録を原本とし、これを印刷した書面は写しとする。
- 前項の各方法のうちいずれによるかは、甲乙間で署名の前に合意した方法による。一方が書面により、他方が電磁的記録により署名する方法は採らない。
最後の項は、混在を認めない型の例です。混在を認めるなら、そのときの原本の扱いと保管を別に書きます。
併記型で後から困りやすいのは、次の三点です。
- どちらの方法で結んだのかが、契約書自体から分からない。署名欄の近くに「この契約は電磁的記録により締結した」などの一文を置く、あるいは電子契約サービスの署名の記録をもって方法を示す、といった補いを考えておく。
- 一方が紙に押印し、他方が電子署名をする混在が起きる。たとえば、一方が紙で署名して返送し、他方がPDFにして電子署名を付すと、どれが原本なのか、通数は何通なのかが定まらない。混在を認めないか、認めるなら原本を定める。
- 日付が二つある。併記型では、署名日の欄を「書面の場合」と「電子の場合」で分けることがあるが、締結日をどう扱うかを決めておかないと、成立時期の整理(署名の順序・締結日・成立時期)に響く。
電子契約を原則とし、紙の署名を例外として認める書き方もあります。たとえば「本契約は電磁的記録により締結する。ただし、当事者のいずれかが電子署名を利用できない事情があるときは、書面により締結することができる」とする型です。紙の契約から電子への移行期に使われることがあります(移行の条項は紙の契約を電子へ移すときのページで扱います)。
個別契約・変更・解除をメールやチャットで行う条項
基本契約を結んだうえで、個々の注文を個別契約として成立させる取引では、注文のたびに契約書を作るのは負担が大きいため、メールやチャットのやり取りで個別契約を成立させる条項が置かれることがあります。契約が成り立つかどうかの法的な整理は別のページに譲りますが、条項を書く立場から注意すべき点は次のとおりです。
条文例電磁的記録による個別契約の成立(一般的な型)
- 個別契約は、発注者が、業務の内容、成果物、報酬、納期その他の個別条件を記載した電磁的記録を受注者に送信し、受注者が承諾する旨の電磁的記録を発注者に送信し、その電磁的記録が発注者に到達した時に成立する。
- 前項の電磁的記録は、電子メール、チャットツール、電子契約サービスのうち、当事者があらかじめ書面または電磁的記録で合意した方法により送信する。
- 個別契約の成立後に個別条件を変更する場合も、第1項および前項の方法による。
- 受注者は、第1項の個別条件を記載した電磁的記録の受信後、○日以内に承諾の可否を通知しないときは、これを承諾したものとはみなされない。
最後の項は、黙っていたことを承諾とは扱わない例です。扱うなら、その旨と期間、例外を明記します。
ここで押さえたい点が四つあります。
第一に、成立の時点です。上の型は「承諾の電磁的記録が発注者に到達した時」としています。意思表示はその通知が相手方に到達した時からその効力を生ずる、という民法97条1項の考え方に合わせた書き方です。実務では「送受信が通常到達すべき状態に置かれた時点で成立したものとみなす」のような書き方も見られます。この書き方は、相手方が実際に読んだかどうかを問わず、受信用の領域に届いた時点で足りる、という趣旨で理解されます。民法97条2項は、相手方が正当な理由なく到達を妨げたときは通常到達すべきであった時に到達したとみなすと定めていますが、契約の条項で到達の基準を先に決めておけば、争う余地が小さくなります。
第二に、使える手段の特定です。「電子メール、チャットツールその他の電磁的方法」と広く書いておくと、取引の途中で使い始めた別のツールのやり取りまで個別契約の成立に使われかねません。個別契約の成立に使う手段は、あらかじめ合意した限られたものにし、それ以外の手段でのやり取りは「打合せ」にとどまると整理しておくと、後から「あのチャットで発注は決まっていた」という言い分を避けられます。
第三に、変更と解除です。個別契約の成立と同じ手段で変更も行えるとするかどうかを決めます。軽い変更は電磁的記録で足り、報酬や契約期間の変更は署名付きの書面や電子署名による覚書とする、という二段にしておく書き方もあります。解除は相手方の地位に大きく影響するため、通知を書面または記録の残る方法に限る、と定めることが多くなります。
第四に、記録の保存です。メールやチャットのやり取りは、サービスの仕様でメッセージが消えたり、検索できなくなったりすることがあります。条項には「当事者は、第1項の電磁的記録を、個別契約の終了後一定の期間保存する」のように、保存する側と期間を定めておくと、証拠としての使いやすさが変わります。
通知・連絡の条項:方式・到達の時点・アドレスの変更を入れる
契約書の中の通知条項は、電子契約でなくても置かれますが、電子で結ぶ契約では「書面または電子メールで行う」と書かれることが多くなっています。ここで条項が薄いと、解除通知や更新拒絶の通知が届いたのかどうかが争われます。通知条項に入れておきたいのは、方式、到達の時点、アドレスの変更の三つです。
条文例通知条項(一般的な型)
- 本契約に基づく通知は、書面または電子メールにより行う。ただし、解除の通知は、書面または電子契約サービスを通じて行う。
- 前項の通知は、書面の場合は相手方に到達した時に、電子メールの場合は相手方が指定したメールアドレスに宛てた電子メールが相手方の受信用のサーバーに記録された時に、到達したものとする。
- 各当事者は、通知先のメールアドレスを変更するときは、あらかじめ相手方に書面または電子メールで通知する。変更の通知を怠った場合、従前のメールアドレスに宛てた通知は、通常到達すべき時に到達したものとみなす。
電子メールで「到達した時」を決めるとき、実際に相手がメールを開いた時なのか、受信用のサーバーに記録された時なのかは、条項で選ぶことができます。実務では、相手が開いたかどうかを証明するのは難しいため、サーバーへの記録時、または相手が指定したアドレスへの送信時としておくことが多くなります。ただし、送信した側が不利になることもあります。たとえば送信時を基準とすると、実際には迷惑メールの振り分けで受信されなかった通知も、到達したことになってしまいます。どの時点を基準にするかは、通知を出す機会が多い立場と受ける機会が多い立場のどちらに近いかで、望ましい書き方が変わります。
アドレスの変更の定めは、特に重要です。担当者が退職してアドレスが使えなくなった、共有アドレスの管理者が変わった、といった場面で、従前のアドレスに宛てた通知の扱いが争われます。担当者のアドレスだけを通知先に指定している契約では、担当者が替わったことを相手が知らないままで契約が続いてしまうため、組織の代表アドレスや共有アドレスを併記する、という工夫もあります。
なお、消費者を相手にする契約では、到達の時点を事業者に有利に決める条項や、通知先の変更の怠りを理由に不利益を課す条項が、消費者の利益を一方的に害するものとして無効になることがあります(消費者契約法10条)。事業者間の契約と同じ書き方をそのまま消費者向けの規約に持ち込まないよう注意します。
署名欄・サービス名・署名者の表明の書き方
電子契約の署名欄には、紙の契約書と同じく当事者の名称と代表者の肩書・氏名を書きますが、電子ではメールアドレスの欄を設けることが実務でよく見られます。署名依頼の送信先を特定するためです。この欄の書き方で、後から問題になる点が三つあります。
- 署名依頼を受けるアドレスと、署名者本人のアドレスが一致するとは限らない。法人では、総務担当者のアドレスで依頼を受け、その担当者が代表者に代わって操作することがある。署名者が誰なのかを、署名欄の肩書・氏名で特定する。
- 個人アドレスと共有アドレスが混在する。共有アドレスに届いた署名依頼は、複数人が開ける。署名を行ったのが誰かを後から確かめにくい。
- 署名欄に書いたアドレスが、契約期間中の通知先と同じとは限らない。通知条項の通知先と同じにするか、別にするかを決める。
サービス名を条項の中に書くかどうかは、書き方の分かれ目です。サービスの名前を書くと、条項から、どの仕組みで署名がされたのかがはっきり分かります。反面、サービスの提供条件、署名の方式、保存の仕組みは、事業者が更新することがあります。契約の期間が長いほど、条文に書いたサービスの名称が実態と合わなくなるおそれが大きくなります。そのため、条文には「甲乙が合意した電子契約サービス」と抽象的に書き、サービスの名称と利用条件は、署名欄の近くの注記か別紙に書くという整理が見られます。名称は変えても条文は変えずに済みます。
署名者が法人を代表して署名するときには、契約書に署名者の権限の表明を入れておく書き方もあります。
条文例署名者の権限の表明(一般的な型)
- 甲および乙は、本契約の締結にあたり署名する者が、それぞれ本契約を締結する権限を有することを表明し、保証する。
- 甲または乙は、署名者に変更が生じたとき、または署名者の権限に変更が生じたときは、遅滞なく相手方に通知する。
権限の表明は、署名者の確認の代わりにはなりません。権限の確かめ方は別のページで扱います。
この表明は、署名者が権限を持たなかった場合に、表明した側の責任を問う根拠になります。ただし、権限のない者が代理人としてした契約は、本人が追認しなければ本人に対して効力を生じないというのが民法の原則であり(民法113条1項)、表明の条項があることで無権限の契約が有効になるわけではありません。確かめる手順は、署名者の本人確認と権限の確認のページで扱っています。
起きがちなことと、署名前の確認
条項の場面別、起きがちなこと
- 雛形の末尾条項が「書面の場合」だけになっていて、電子で結ぶときに条項を直さないまま署名手続に進み、原本の扱いが決まっていない。
- 「電子署名を措置する」の後ろのサービス名が空欄のまま署名される。どのサービスを想定した条項かが、署名後に確定しない。
- 併記型の契約で、一方が紙に署名し、他方が電子署名をして、原本と通数が曖昧になる。
- 「電子メールその他の電磁的方法」で個別契約が成立するとしたため、取引の途中で使い始めたチャットの書き込みが、発注だったのか打合せだったのかが争いになる。
- 通知先として担当者個人のアドレスだけを指定していたため、担当者の退職後に届いた解除通知の到達が争われる。
- 条文にサービスの名称を書き、長期の契約の途中でサービスが変わったため、条文と実態が合わなくなる。
署名の前に確かめる項目
- 末尾条項に、作成・署名・保管・原本と写しの四点が入っているか。
- 「電子署名」の語が、定義されているか、方式が特定されているか。
- 書面と電子を併記する場合、混在を認めるのか、認めないのか。
- 個別契約・変更をメールやチャットで行うなら、使える手段・成立の時点・保存する側と期間が書かれているか。
- 通知条項に、方式・到達の時点・アドレス変更の定めがあるか。
- 署名欄に、法人名・肩書・氏名・署名依頼の宛先アドレスが書かれ、署名者の権限の扱いが決まっているか。
- サービスの名称が条文に直接書かれていないか、書かれているなら変更時の扱いが決まっているか。
電子締結の条項は、紙の契約書に電子の言葉を足すだけの作業に見えます。実際には、電磁的記録は複製が容易で、署名の仕組みが事業者や方式によって異なり、保管の実態も契約ごとに違うため、条項の言葉を実態に合わせる点検が必要になります。条文を一度整えておけば、署名のたびにやり直す必要はありません。成立の時期や日付の整理は署名の順序・締結日・成立時期で、トラブルになったときの証拠の出し方は電子契約のトラブルとよくある質問で扱います。
よくあるご質問
契約書の最後に、電子で締結したことをどう書けばよいですか。
一般的な型は、①契約書を電磁的記録として作成すること、②当事者が電子署名を付すこと、③各自が保管すること、④電磁的記録を原本とし印刷した書面は写しとすること、の四点を一つの条にまとめる書き方です。契約の成立に書面は必須ではなく(民法522条2項)、この条項は成立を有効にするためのものではなく、後から事実を説明するための記録の役割を持ちます。「電子署名」の語の意味と、サービスの名称の置き場所は、あわせて整えます。
「電子署名を措置し」という言い方は、そのまま使ってよいですか。
「措置」は電子署名法2条1項の文言を借りたもので、誤りではありません。ただ、日常語としては分かりにくく、署名の方式を問わず使える反面、何をすることなのかが読み取りにくくなります。「署名を付す」「署名の手続を行う」と書き、必要に応じて、署名者の作成に係ることを示し、署名後の改変の有無を確認できる措置という定義を置く書き方が、読み手には分かりやすくなります。
書面と電子を併記した契約書で、一方が紙、他方が電子で署名することはできますか。
契約の成立自体は方式に縛られないため、混在した署名でも成立する場合はあります。ただし、原本がどれなのか、通数は何通か、締結日はいつかが曖昧になり、争いになったときに証拠の整理が難しくなります。併記型の条項では、混在を認めない書き方にするか、認めるなら原本と保管を別に定める書き方にします。
メールで「承知しました」と返信されたら、個別契約は成立したことになりますか。
契約は申込みに対して相手方が承諾したときに成立します(民法522条1項)。基本契約が「電磁的記録による合意で個別契約が成立する」と定めているなら、そのやり取りが申込みと承諾に当たるかが問題になります。内容が特定されていない返信や、複数の話題が混ざったやり取りは、何について承諾したのかが争われます。個別条件を一通にまとめて送り、その一通への承諾の返信を得る形にしておくと、争いの余地が小さくなります。
契約書の中に、サービスの名称を書いてもよいですか。
書いてはいけないわけではありません。ただ、サービスの提供条件や署名の方式は事業者が変更することがあり、契約が長期になるほど条文と実態がずれるおそれがあります。条文には「合意した電子契約サービス」と書き、名称は署名欄の近くの注記や別紙に置くと、サービスが変わっても条文の改定を避けられます。
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本ページは一般的な情報提供です。個別の契約への当てはめは、契約の種類、相手方との関係、利用する電子契約サービスの仕組みによって異なることがあります。書き方の例として紹介している内容は、契約書作成の実務の経験をもとに、一般に見られる書き方を整理した例で、特定の事業者や取引を示すものではありません。条文は e-Gov法令検索(法令API)で現行の規定を確認しています。参考: e-Gov法令検索 / 総務省 / 法務省 / 経済産業省 / デジタル庁